新蕎麦と彌生さまを松本で

 11月、帰省先の名古屋から松本へ向かった。帰京前にふらっと寄り道旅である。蕎麦を食べる、松本市美術館へ行く、時間があったら松本城を観光、夜は地元飯居酒屋&温泉付きホテルで1泊。ざっくり簡単な予定だけ立て、昨今あなどれない食とホテルだけ事前に予約しておいた。

 松本に昼到着。蕎麦屋さんの予約時間まで少しあったので、観光スポットであるらしい風情のある商店街や通りをぶらぶら散策、いきなり予定外のことからだ。前をいく爺さんの二人づれが「あの先のカフェでモンブランを食べて一休みしよう」下調べばっちりな感じで会話。なんか可愛い。吸い寄せられるように入った民芸家具と小物を扱う店で旅気分を高め、四柱神社にもご挨拶したら、いざ蕎麦屋へ。

 品書きひとつ。少量のお酒と肴、せいろ、お新香に、甘く煮あげたデザート豆。粋な女将さんが、様子をみながら順番にだしてくれる。文句なしに美味い。とくに先付の肴(つるんとした肝におろし大根)は、どうやったら作れるのか解らない逸品だった。蕎麦湯までしっかり堪能して、席をたとうと思ったところへ、若い欧米人カップルがイン。店の人が見当たらず困惑顔。奥にひっこんでいた女将さんを代わりに呼ぶ。女将さんが出てきて「日本語できる?」と日本語で言いながら、テーブルを指さす。困惑顔がつづく。予約はとってなさそう。カタコトで、日本語オンリーなこととメニューはひとつと伝えると頷いて着席した。外観からは蕎麦屋であることもわからぬ店、ネットで調べてきたんだろうなぁ。女将さんに「海外の方よく知っておられますねぇ」と話しながら会計を依頼すると「私、ネットとか全く見なくて、どんな紹介されているのか全然知らないのよねぇ。時々こうしていらっしゃるけど、日本語できる?ってきいちゃう」と笑みを浮かべることもなく話す。女将さんがつっけんどん、やや批判めいた感じの内容をネット情報で見かけていたが、この感じなんだろうなぁ。私は気持ちがよかった、必要以上に媚びない感じ。サーブは真っ当で、私は食している途中に、薬味が足りなかったら持ってこようかと絶秒なタイミングでたずねられた。きっと、海外の方にも同じように「薬味もっといる?」と日本語できいちゃうんだろう。

 蕎麦屋あとは美術館へと思ったが、松本城まですぐだと気づき、小一時間で巡れそうだったので迷わず向かった。いやぁ~、日本が誇る黒い城の姿は素晴らしく、たしかに小一時間で巡れたけれど、すんごい急な階段を腿の筋肉ピキピキさせて上ったぜぃ、ぜぃぜぃ。膝にわるいなぁと感じつつも、5重6階天守日本最古の歴史体験と貴重な眺めと等価交換ということで。

 元気なうちに来られてよかったと、しみじみ松本城をあとにし、松本市美術館へ。そもそも松本へと思い立ったのは、この美術館に来てみたかったからだ。草間彌生、生誕の地ということで彌生押しな美術館である。裏側から入ったら、おお、いきなりドット柄な自販機が!彼女の作品は全国あちこちで見られるけれど、美術館壁面のデザインや入口前の野外彫刻「幻の華」のは他にない存在感を放っていた。通年展示の「草間彌生 魂のおきどころ」展はもちろんのこと、すべての展示室をめぐり、アートな空気をたっぷり吸いこんだ。

 ホテルでひとやすみしてから、夜の町へ。地元料理が食べられる、こじんまりとした居酒屋は、すでに席はうまっていた。リザーブ札がおかれたカウンター端の席へ。観光客はいなさそう、右のテーブルには麻婆豆腐(何故、ここで?!きっと美味しんだな)を囲む家族、うしろの座敷は少し早い忘年会風。メニューブックが二冊、そのひとつを開いて、ありがたビックリ。地元ものと、おひとり様向き内容がずらり。馬刺しや野沢菜などが少量ずつ盛り合わさった地元な肴セット的な「うってつけ」な一品。あわせて地酒をいただく。お酒も半合が基本で、いろいろ楽しめるホスピタリティ。事前に唯一調べたうえで予約した店だったが大ヒットであった。決定打となったのは「きのこ鍋」で、この季節ならではの限定メニューの旨味といったら、もう。

 温泉につかりながら、松本での予定はすべてクリアだなぁ、朝蕎麦でも食べて、ゆったり帰ろうかなぁと思いをめぐらす。帰路検索すると候補は複数。「あずさ」で新宿までか、長野から新幹線か。そうか長野経由なら、善行寺参りできるじゃん。翌朝ゆっくりめに松本から長野へ、オフシーズンなりにインバウンドな方々もたくさんな善行寺へお参り、参道から少し脇にはいった店で蕎麦を手繰り、近くにあった(善行寺に行ってから気づいた)長野県立美術館へも。美術館内にはなんと「東山魁夷館」もあり、思いがけず充実な寄り道となった。

 短くとも旅にでれば、歩く、見る、感じる。元気なうちに動くって、まじ大切。まじ。

saikosan

さいこさんの創作セカンドライフ

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